高知の飲み方がわからない|返杯・献杯・べく杯・はし拳の作法
高知の宴席では杯が回ってきます。返杯・献杯とお座敷遊びの作法を知っておけば、初めてでも楽しめます。
執筆・監修:ナイトウォーカージャパン編集部
この記事について
ナイトウォーカージャパン編集部です。
高知で飲むと、県外の人はまず「返杯(へんぱい)」でとまどいます。自分の杯を空けたと思ったら、その杯が相手に渡り、注がれて戻ってくる。知らないと何が起きているのか分かりません。
高知は「酒国土佐」と呼ばれる土地で、宴席そのものを「おきゃく」と呼びます。皿鉢(さわち)料理を囲んで、献杯・返杯で杯をやりとりし、後半はお座敷遊びに入る。この流れを知っておくだけで、初めての高知の夜がまったく違うものになります。
高知市の資料と地元の酒販店・料亭の解説をもとに整理しました。
献杯と返杯 ── 高知の杯のやりとり
高知でいちばん有名なのがこれです。葬儀の「献杯」とは別物なので、混同しないでください。
献杯(けんぱい)は、自分の杯を相手に差し出して酒を注ぐこと。目下から目上へ敬意を表すかたちが基本です。
返杯(へんぱい)は、杯を受けた側がその酒を飲み干し、空いた杯を相手に返して、今度は自分が注ぐこと。この往復がセットで「献杯・返杯」と呼ばれます。
流れにすると、こうなります。
- 「返杯」と声をかけて、自分の杯を飲み干す
- 空いた杯を相手に渡し、酒を注ぐ
- 相手が飲み干して、杯を返してくる
- 返ってきた杯に、相手が注いでくれる
注ぐときも注がれるときも両手で持つ、飲み口をおしぼりで拭いてから渡す、受けたら礼を述べる。この三つを押さえておけば失礼になりません。
一つの杯を回すので、酒量は自分で思っているより早く進みます。県外の人が高知でつぶれるのは、たいていこれが理由です。
飲めないときは、はっきり断っていい
大事な点なので先に書きます。返杯は断ってかまいません。
地元の酒販店も「返杯を断られた場合や飲めない相手には絶対に行わないこと」と明記しています。無理に飲ませるのは危険な行為で、土佐の作法でもありません。
体質的に飲めない、車で来ている、薬を飲んでいる。理由を一言添えて「今日は控えています」と伝えれば、それで通ります。杯だけ受けて口をつけ、飲み干さずに返すかたちでも失礼にはあたりません。
2020 年には感染症対策として、高知県が返杯の自粛を呼びかけたこともあります。文化としては残っていますが、絶対のルールではありません。
べく杯(可杯) ── 置けない杯
宴会が後半に入ると、お座敷遊びが始まります。その代表がべく杯です。
「可」という字は漢文で「可◯◯(◯◯すべし)」と使い、文末には置かれません。そこから「下に置けない杯」を可杯と呼ぶようになったと言われています。
三つの杯と一つの独楽(こま)を使います。
おかめ … 一口サイズ。顔を下にして置くのはかわいそう、という理由で酒が入った状態では置けません。
ひょっとこ … 口のところに穴が空いていて、指で押さえないと漏れます。
天狗 … 最も大きく、長い鼻の先まで酒が入ります。八勺ほど入る店もあります。不安定で、飲み干すまで手を離せません。
遊び方は、三つの面が描かれた独楽を回し、止まったときに軸が向いた方向に座っている人が、出た絵柄の杯で飲む、というもの。天狗を引くと場がいちばん沸きます。
つまり、どの杯も置けない。だから飲み干すまで終わらない、という仕掛けです。
はし拳 ── 全日本選手権まである遊び
べく杯と並ぶ土佐の代表的なお座敷遊びです。赤い箸を使った二人の勝負で、負けたほうが杯を飲みます。
二人が向かい合い、それぞれ赤箸を三本ずつ後ろ手に隠し持ちます。手のなかに何本か握って前に差し出し、二人が出した箸の合計本数を当て合う。先手は「三本」としか言えず、後手は「一本」か「五本」としか言えない、という独特のルールがあります。
合計が三本なら先手の勝ち、後手が言い当てれば後手の勝ち。三本勝負で、負けたほうが飲みます。
嘉永二年(1849 年)に鹿児島の船頭が宿毛へ伝えた薩摩拳(なんこ)がもとになったとされ、当初は金銭を賭ける博打だったものが、負けたら飲むお座敷遊びへと変わっていきました。
1963 年から毎年 10 月 1 日に「土佐はし拳全日本選手権大会」が開かれています。遊びに全日本選手権があるのは、なかなかありません。
菊の花 ── 酒のロシアンルーレット
伏せて並べた杯のひとつに菊の花を隠し、盆を回しながら順に杯を返していく遊びです。
菊の花を引き当てた人が当たり。そこまでに返されている杯すべてに酒が注がれ、それを全部飲み干します。後半になるほど杯の数が増えるので、当たったときの量が跳ね上がります。
べく杯やはし拳が一対一の勝負なのに対して、こちらは場全体で回す遊びです。
帯屋町で飲むときに知っておくこと
高知最大の歓楽街は帯屋町(おびやまち)です。アーケード商店街の周辺に夜の店が集まっています。
お座敷遊びは、料亭や芸妓を呼べる席でのものが本格的です。ただし帯屋町のスナックや小料理屋でも、べく杯を置いている店はあります。飲みながら「べく杯ありますか」と聞いてみるのが早いです。
県外から来た人は、返杯で一気にペースが上がることだけ頭に入れておいてください。ひとつの杯を回す以上、自分のペースでは飲めません。水を挟む、途中で断る。それをしても場は壊れません。
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よくある質問
Q.返杯は断ってもいいですか?
A.断ってかまいません。地元の資料でも「断られた場合や飲めない相手には絶対に行わない」とされています。「今日は控えています」と一言添えれば失礼にはなりません。杯だけ受けて口をつけ、飲み干さずに返すかたちもあります。
Q.献杯と返杯はどう違いますか?
A.献杯は自分の杯を相手に差し出して酒を注ぐこと、返杯は受けた側が飲み干して杯を返し、今度は自分が注ぐことです。この往復がセットになっています。葬儀の席で言う「献杯」とは別のものです。
Q.べく杯はどこで体験できますか?
A.料亭のお座敷遊びとして体験するのが本格的ですが、帯屋町のスナックや小料理屋でも置いている店があります。店の人に聞いてみてください。杯と独楽のセットは高知の酒販店でも売られています。
Q.天狗の杯はどれくらい入りますか?
A.三つの杯のうち最も大きく、長い鼻の先まで酒が入ります。八勺(およそ 144 ミリリットル)入るものが使われている店もあります。飲み干すまで置けない形なので、引いたら覚悟が要ります。
Q.はし拳のルールが覚えられません。
A.先手は「三本」としか言えない、後手は「一本」か「五本」としか言えない。この二つだけ覚えておけば参加できます。合計が三本なら先手の勝ち、後手が言い当てれば後手の勝ちです。細かい作法は打ちながら覚えるもので、最初は分からなくて当たり前です。
Q.お酒が飲めなくても宴席に参加できますか?
A.できます。皿鉢料理を囲む「おきゃく」は料理と場そのものを楽しむ文化です。杯が回ってきたら口をつけて返す、あるいは断る。それで問題ありません。無理に飲ませようとする相手のほうが作法から外れています。
